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岐阜地方裁判所大垣支部 昭和54年(ワ)129号 判決 1981年2月25日

主文

被告は原告に対し、金三九六万円及びこれに対する昭和五四年一二月六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを一〇分し、その二を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

この判決は第一項にかぎり仮に執行することができる。

事実

第一当事者双方の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し金四九五万〇九三九円、並びにうち金四九〇万二五四九円については、別表請求額欄記載の各金額に対する各支払日の翌日から、及びうち金四万八三九〇円については、これに対する昭和五一年七月六日からそれぞれ支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え

2  訴訟費用は被告の負担とする

3  仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二原告の請求の原因

一  事故の発生

被告は、昭和五一年七月五日午前一〇時五〇分頃、大垣市室村町二丁目七九番地先の交通信号機の設置されている交差点において、自己所有の普通乗用自動車(岐五六て四二五三、以下「加害車両」という。)を運転し、同交差点を南から東へ右折する際、同交差点を通過するために信号に従い北から南へ対向直進中の訴外近藤藤美運転の原告所有の自動二輪車があつたのであるから、同交差点を右折するにあたつては進路前方を注視し、安全な方法で進行しなければならない注意義務があつたにもかかわらず、右近藤の運転する自動二輪車を充分確認することなく、漫然と自車を進行させた過失により、同車を右近藤運転の自動二輪車(以下「被害車両」という。)に衝突させ、よつて同人に対し、右手掌右大腿挫創、右下腿骨開放性複雑骨折等の傷害を負わせるとともに同車を破損させた。

二  被告の責任

被告は、本件加害車両の所有者であり、かつ、同車を自己のために運行の用に供していたものであるから自動車損害賠償保障法三条により、また、被告は前記のような過失によつて本件事故を惹起させたものであるから、民法七〇九条により、本件事故による損害を賠償すべき責任がある。

三  損害

訴外近藤の損害

(一)  訴外近藤は、本件事故当時、国家公務員(郵政事務官)として、大垣郵便局貯金課に勤務し、本件事故当日は、貯金の集金に従事していた。本件事務は、その公務遂行中発生したものである。

(二)  療養費

(1) 訴外近藤は、本件事故当日から大垣市南頬町八六番地所在大垣市民病院において前記傷害の治療を受けた。

同人の治療に要した費用は、昭和五四年六月二九日現在総額一九六万四六五六円である。

(2) 原告は、国家公務員災害補償法一〇条の規定に基づき、訴外近藤に対し、別表療養補償欄記載のとおり療養補償として昭和五四年六月二九日までに総額一九六万四六五六円を支給して、同人の損害をてん補したので、同法六条一項の規定により、同人が被告に対して有する損害賠償請求権を右補償額の限度において代位取得した。

(三)  休業損害

(1) 訴外近藤は、本件事故による傷害のため、合計五六〇日間を欠務した。その欠務日数に対応する給与の額は、総額三四〇万三五三七円である。

(2) 原告は、訴外近藤に対し、公共企業体等労働関係法八条一号に基づき郵政省と全逓信労働組合及び全国特定局従業員組合との間に締結された昭和三二年一一月二六日付け特別休暇等に関する協約四条二項の規定により、別表給与支給欄記載のとおり、給与としての総額三四〇万三五三七円を支払い、同人の損害をてん補したので、民法四二二条により、同人が被告に対して有する損害賠償請求権を右給与支給額の限度において代位取得した。

2 車両の損害

本件被害車両(ホンダMD九〇K―九〇CC)は、前記のとおり、原告の所有(取得価格九万六二〇〇円)にかかるものであり、昭和五〇年一〇月一日から大垣郵便局において貯金の集金等に使用してきたものであるが(事故当時までの延走行粁数五一九〇キロメートル)、前記のとおり本件事故により破損されたため原告の蒙つた損害は金四万八三九〇円である。

3 保険金の控除

原告は、本件事故に関し、昭和五三年六月二三日自動車損害賠償責任保険の保険金四六万五六四四円の交付を受けたので、これを別表保険金充当欄記載のとおり療養費に充当した。

4 以上により原告が被告に対して有する損害賠償債権の合計額は金四九五万〇九三九円である。

四  ところで、原告は、被告に対する損害賠償請求権の行使については、原告の全損害金額の確定後に行使すべく対処していたところ、本件事故発生後三年近くにおよぶも、訴外近藤の治療が継続していたので、原告の右損害賠償請求権の消滅時効を中断すべく昭和五四年六月四日被告に対し、催告書を送達した。

五  よつて、原告は、被告に対し、前記損害賠償債権金四九五万〇九三九円、並びにうち金四九〇万二五四九円については、別表請求額記載欄記載の各金額に対する各支払日の翌日から、及びうち金四万八三九〇円については、これに対する前記不法行為の日の翌日である昭和五一年七月六日からそれぞれ支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

第三被告の請求原因についての認否及び主張

一  請求原因の認否

(一)  請求原因一項のうち、被告に過失があつたとの点は争うが、その余の事実は認める。

(二)  同二項については争う。

(三)  同三項については不知

二  被告の主張

本件事故は、交差点信号の切りかわり時に強引に自車のスピードを上げて交差点に突込んだ訴外近藤藤美の安全注意義務違反に基いて発生した事故である。

第四証拠〔略〕

理由

一  原告主張の日時、場所において、右折中の被告運転の加害車両と対向直進中の訴外近藤藤美運転の被害車両とが衝突し、その結果訴外近藤藤美が原告主張のような傷害を負い、被害車両が破損したことは当事者間に争いがない。

二  そこでまず本件事故の態様と過失の内容について検討する。成立に争いのない甲第二号証、第三号証の一ないし五、第五号証を総合すると次の事実が認められる。

本件事故現場は南北に通ずる幅員約九・五メートルの舗装道路と東方から右南北道路とほぼ直角に交わる幅員約七メートルの東西道路との信号機のある丁字路交差点であり、西側は下水路が流れ、東側は人家が建ち並び、右交差点から北方は西側にゆるやかにカーブしていて右交差点付近から前方の見とおしは悪くない。被告は前記日時ごろ、前記自動車を運転して右南北道路から東西道路へ右折しようと同交差点中央寄りで対向車の通過を待つて一旦停車し、対向車が通過したので時速約一〇キロメートル位の速度で右折態勢に入つたこと、このような場合自動車運転者としては右折の合図をし、徐行しつつ、対向車両もしくは後続車両の安全を確認すべき注意義務があるのに、その合図をしたが対向直進する右被害車両との安全を確認することなく時速約一〇キロメートルで右折進行した過失により、北方から時速約四〇キロメートルで対向直進してきた被害車両と衝突させ、よつて訴外近藤に対して後記傷害を負わせたものであることが認められ、右認定に反する被告本人尋問の結果は措信できない。

しかのみならず、道路交通法三七条によれば、車両等は交差点で右折する場合に、当該交差点において直進し、または右折しようとする車両等があるときは、当該車両等の進行妨害をしてはならないと規定しているので、右折車としては直進車優先の原則に則り、直進車の位置や速度について的確な判断をして衝突の危険がないことを確認した後に右折すべき義務があり、一方、直進車の運転者としては右折車両が自車に進路を譲つてくれることを期待して直進することが許されるものと解されるのである。

なお、被告は本件事故は交差点信号の切りかわり時に強引に自車の速度を上げて交差点に突込んだ訴外近藤の安全注意義務違反によつて惹起したと主張するが、衝突地点の位置並びに衝突部位からも右主張は採用のかぎりではない。

以上の次第で、本件事故の発生につき被告に過失があつたものといわなければならない。

また、被告本人尋問の結果によると、加害車両が被告の所有であることが認められ、かつ被告の運転中本件事故を惹起したものであつて、被告の免責も認めることができないことは前叙のとおりであるから、被告は運行供用者として自動車損害賠償保障法三条により本件事故によつて訴外近藤の蒙つた損害を賠償すべき義務があるものといわなければならない。

ところで、訴外近藤においても、右折指示信号の出ない本件交差点をアルミバン型貨物自動車に追従して通過しようとしていたのであるから、前車との間隔をとつて前方右方を注視し右折態勢にあつた加害車両をもう少し早期に確認しておれば本件事故は回避できたと考えられるところ、同訴外人は前方右方の見とおしが十分きかない状況のまま前記速度で右貨物自動車に追随進行した落度が認められるので、同訴外人の右過失は被害者側の過失として後記損害額の算定に当つて二割程度斟酌されるべきである。

三  そこで、訴外近藤の損害額と原告の代位取得について判断する。

(一)  証人近藤藤美の証言及び弁論の全趣旨を併せ考えると、訴外近藤は、本件事故当時国家公務員(郵政事務官)として大垣郵便局貯金課に勤務し、事故当日は貯金の募集に従事していたときに発生したものであることが認められ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

(二)  療養費

成立に争いのない甲第三号証の四、第四号証、第六号証の一ないし三五、証人近藤藤美の証言並びに弁論の全趣旨を併せ考えると、訴外近藤は、本件事故により右手掌、右大腿挫創、右下腿骨開放性複雑骨折等の傷害を負い、当初は入院加療約一か月間という診断であつたが、その後治療が長引き、結局昭和五一年七月五日から同年九月一〇日まで大垣市民病院に入院して治療を受けた後、同病院整形外科に通院して加療を続け、昭和五四年五月三一日まで治療を受けていたこと、同人の治療に要した費用は、昭和五四年六月二九日現在総額一九六万四六五六円にのぼること、原告国が訴外近藤からの国家公務員災害補償法一〇条に基く療養補償請求に対し別表療養補償欄記載のとおり、療養補償として昭和五四年六月二九日までに総額一九六万四六五六円を支給して同訴外人の損害をてん補していること、右損害のてん補に伴い、国家公務員災害補償法六条一項により同訴外人が被告に対して有する損害賠償請求権を右補償額の限度において代位取得していることが認められ、他に右認定に反する証拠はない。

(三)  休業損害

成立に争いのない甲第七号証の一ないし七、第八号証、第九号証の一ないし四、第一〇号証並びに弁論の全趣旨を総合すると、訴外近藤藤美は本件事故による傷害のため昭和五一年七月六日から合計五六〇日間欠務(公務傷病)したこと、原告は訴外近藤に対し公共企業体等労働関係法八条一号に基づき郵政省と全逓信労働組合及び全国特定局従業員組合との間に締結された昭和三二年一一月二六日付特別休暇等に関する協約四条二項の規定により、有給休暇として取扱われる右欠務日数に対応する給与として別表給与支給欄記載のとおり、総額三四〇万三五三七円を支払い、同訴外人の損害をてん補していること、右損害のてん補に伴い、同訴外人が被告に対して有する損害賠償請求権を右給与支給額の限度において代位取得していることが認められ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

四  車両の損害

成立に争いのない甲第一一号証、第一四号証、証人近藤藤美の証言を併せ考えると、本件被害車両は原告の所有にかかり、本件事故当時大垣郵便局において貯金の集金等に使用してきたものであること、本件事故によつて破損されたため荷箱、ガソリンタンク、ブレーキペタル、フレームなどの修理を余儀なくされ、その修理代金(材料部品代及び加工代)として金四万八三九〇円を要したことが認められ、他に右認定に反する証拠はない。

五  保険金の控除

成立に争いのない甲第一二号証の一ないし三及び弁論の全趣旨を併せ考えると、原告は加害車両にかかる自動車損害賠償責任保険の損害賠償額(公務災害補償額)を富士火災海上保険株式会社に請求していたところ、昭和五三年六月二三日東海郵政局を通じて右保険金四六万五六四四円の交付を受けたこと、そして、右金員を別表保険金充当欄記載のとおり療養費に充当したことが認められ、他に右認定に反する証拠はない。

六  過失相殺

以上によつて原告が被告に対して有する損害賠償債権の合計額は金四九五万〇九三九円となるところ、前記訴外近藤藤美の過失を斟酌すると、右のうち被告に賠償を命ずべき額はその約八割に当る金三九六万円が相当と認められる。

七  以上の次第であるから、原告の本訴請求中金三九六万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日であること記録上明白な昭和五四年一二月六日から支払ずみに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金(損害の発生は、原告主張のように支払の都度個別的に発生することになるが、その都度遅延損害金の起算日として算定することは煩繁な計算となるので訴状送達の翌日とした。)の支払を求める限度において理由があるから正当として認容し、その余は失当として棄却し、民事訴訟法九六条本文、一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 大山貞雄)

別表

<省略>

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